これから福祉事業所を開設しようとする事業者さんとお話すると、よくこんな声を耳にします。
「あとは、物件だけなんですよね…」
「資金も大変だけど、まだ何とかなる。でも、物件が見つからないとどうしようもなくて…」
何十年も福祉の世界で貢献してこられ、利用者さんのことを家族のように想い、自分の理想とする施設を思い描いてきた事業者さんが、最初に立ち止まってしまう大きなポイントの一つ。
それが「物件選び」です。
そこで今回は、放課後等デイサービス(放デイ)を開設する際の物件要件をわかりやすくまとめ、条件に合った物件を探すための具体的なアプローチについて考えてみます。
◆ そもそも「放課後等デイサービス」とは?
放課後等デイサービスとは、就学している障がいをお持ちのお子さんに、授業の終了後又は休業日に、生活能力の向上のために必要な訓練や、社会との交流を促すことを目的とした施設です。 学校や家庭とは異なる時間、空間や人、体験などを通じて、個々の状況に応じた発達支援を行うことにより、子どもの最善の利益の保障と健全な育成を図る、地域にとってなくてはならない大切な場所です。
今回は、最もスタンダードな「定員10人」の放デイを開設するために、絶対に外せない物件要件を3つの視点から整理してみました。
視点①:集客と運営のしやすさ(ビジネスの観点)
どれだけ良い療育を提供できても、お子さんが通いにくい場所であっては持続できません。
まずは、利用者の生活圏内であり、学校と自宅の送迎ルートに適したエリア(具体的には、特別支援学級のある小学校や特別支援学校から車で20分圏内など)を目安に探します。
また、戸建てかビルの一室(テナント)か、ご自身の提供したい療育内容やターゲット層に合わせて、最適な物件を選びましょう。

⚠️ 家賃の目安は「売上の10%前後」
安定的な運営につなげるための鉄則は、家賃を売上の10%前後に抑えること。定員10名の放デイでは、開設する地域にもよりますが、15万円前後がひとつの目安となります。
開所当初から利用者が10人満床になることは珍しく、数ヶ月かけて徐々に増えていくのが一般的です。最初の「耐える時期」を乗り切るためにも、家賃だけでなく、改修工事の費用や駐車場代なども含めた「総額」でシミュレーションすることが大切です。
視点②:児童福祉法と地域の基準(福祉・面積の観点)
放デイの物件には、法令で定められた明確な面積基準があります。単にクリアするだけでなく、質の高い療育(オーダーメイド療育)を提供できる、ゆとりある間取り(ざっくり20坪〜30坪程度)を選ぶのがポイントです。
📋 物件条件チェックリスト
[面積・間取り]
指導訓練室: 児童1人あたり一定面積(例:2.47㎡以上、自治体の上乗せに注意)を一体的空間として確保できるか
事務室: 鍵付き書庫やPCを置くスペースがあるか
相談室: プライバシーが守られる「個室・区画」があるか
[安全・バリアフリー]
トイレ・洗面: 介助可能な広さがあり、トイレと洗面が別々になっているか
段差: 入口や室内に危険な段差はないか(スロープ設置可か)
避難経路: 2方向の避難経路が確保可能か(2階以上の場合は特に重要)
[周辺環境]
駐車場: 送迎車(ワンボックス等)の待機や旋回スペースがあるか
近隣: 子どもの声などが騒音トラブルになりそうな住宅密集地ではないか
※根拠:児童福祉法に基づく指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成24年厚生労働省令第15号)第8条
視点③:建築基準法と消防法(他法令の観点)
実は、物件探しで最もトラブルになりやすいのが、この「他法令」の壁です。
🚨 建築基準法:200㎡のライン
元々「事務所」や「店舗」だった物件を放デイにする場合、延床面積が200㎡を超えると役所への『用途変更』の手続きが必要になり、多額のコストと時間がかかります。まずは「200㎡以下」の物件をターゲットにするのが、開業への近道です
🚒 消防法:厳しい「別表第一(六)ハ」の基準
障がいをお持ちのお子さんが利用する施設は、火災時の避難が最優先されるため、一般の事務所より厳しい基準(消防法上の「別表第一(六)ハ」という区分)が適用されます。
自動火災報知設備の設置: 面積に関わらず、原則として設置が義務付けられます。
スプリンクラーや避難器具の設置: 建物の階数や総面積、利用されるお子さんの特性(自力避難が困難かどうか)によって基準が変わります。
物件を契約する前に、必ず図面を持って管轄の消防署へ事前相談に行きましょう。
参考:公式法令データ提供システム(e-Gov)における、該当条文への直接リンクです。
https://laws.e-gov.go.jp/law/336CO0000000037#AppendedTable1
💡 まとめ:オーナーの「理解を得る」ために
放課後等デイサービスの物件探しの最大の難所は、実は法律そのものよりも、「オーナーさんや近隣の方々のご理解が得られるか」という心情的な部分だったりします。
福祉施設という言葉の響きだけで警戒されてしまう場合は、伝え方を少し工夫してみるのがおすすめです。
「障がいのある子どもたちのための、手厚い学童保育のような施設です」
「基本的には、平日の放課後と土曜の日中のみの利用で、夜間の宿泊や居残りはありません。」
このように具体的に伝えることで、オーナーさんも「それなら安心だね」と首を縦に振ってくれやすくなります。
最後に
物件探しは、レインズ(不動産情報ネットワーク)に載っているものだけがすべてではありません。地域の空き家情報や、地元の地場不動産屋さん、時には地域密着の施工業者さんなど、「表に出ていないルート」を丁寧に当たっていくことで、思いがけない良物件に出会えることがあります。
「物件が見つからない…」と立ち止まりそうになったら、一人で抱え込まずに、ぜひ信頼できる専門家を頼ってみてください。
当事務所では、単に書類を作成するだけでなく、自治体のローカルルールの確認や、不動産屋・オーナー様へ提出する「物件要望書」の作成など、物件探しの段階から事業者様と二人三脚で伴走しています。
あなたの「理想の療育」を地域に届けるために。最初の第一歩である物件探しから、一緒にクリアしていけたら嬉しいです。
